男に告白された男
そんなつもりは全くないのに、同僚(男)から告白されてしまいました。 会社を辞めるわけにも行かず、彼も辞める気配もなく、 オフィスの5階(僕)と6階(彼)、なんとなく気まずい僕の日記です。
DATE: 2008/05/02(金)   CATEGORY: 未分類
今頃は、アメリカの青い空の下。
いや、うっかりしてたら世の中GWですね。
ほぼ月刊スパンくらいになってます、すいません。

時間の新しいところからお話しましょうか。
彼は5/1着任で、アメリカに旅立ちました。
荷物だけは先に送っていたようですが、4月の25日が最終出社で
その翌日だか翌々日だかが渡航日だったと思います。
今頃は、アメリカの青い空の下で過ごしていることでしょう。

4月に入ってからというもの、僕は猛烈な勢いで引継ぎを受けるハメになりました。
僕から僕の後任への引継ぎは、お互い同じビルにいるから後回しでも何とかなるのですが
彼と僕の場合はそういうわけにも行かず、最優先事項としていきなり稼動させられた4月でした。
まあ、事業部は同じなので商品知識とか、基本的なことは分かっているのがせめてもの救い、かな(笑)。
新人の頃以来、オフィスで彼と過ごす時間の長い数週間でした。

伊原さんは干渉する気振りもなく、ある意味
僕は放り出された状態で。
けれど僕自身、僕を投げ出しているようなところもあり。
忙しいと、「自分脳」が真空状態になって「仕事脳」100%になる。
自分がどう感じているのか、それを感じるだけの白地が、もう残っていない
とでも言うべき状態。
「お前、パツパツだな」
というセリフをこの一ヶ月、いろんな人から言われ
もちろん、彼にも言われ。
でももしかしたら、そういう状態で彼を送り出せたことは
幸福なことだったかもしれない。
僕にとってか彼にとってか、それともお互いにとってか。

「僕」という人間が彼の不在をどう感じるか、より
「仕事をしている僕」が上手く業務を引き継げるか。
そのことの方が、今はまだ頭の多くを占めているような気がします。
100%の引継ぎ、そんなものは滅多にお目にかかれない代物ですが
GWが明ければいよいよ、後任者としての僕が一人立つ状態になる。
あれが分からない、これはどうする、とか
そういう連絡をアメリカまで追いかけてしたくはないと思う。

余裕はない中でも、彼とちゃんと話すという時間はあったんですけどね。
そのことについてはまた、改めて。

DATE: 2008/04/14(月)   CATEGORY: 未分類
定番みたいな感傷
4月って早いなぁ…。気がついたらもう、GWが間近だったりする。
桜が葉桜になって、週末の路上では新入社員と思しき若人が酔い潰れる。
個人的にはデタラメな4月ってのが、嫌いじゃありません。

伊原さんの解禁発言、なんだかナゾ掛けみたいになっちゃいましたが(笑)
なんのことはない、「人事情報解禁」のことです。
月曜朝に解禁なんですが、週末の土日をノーカウントにすれば
まあ、金曜の深夜零時を持って解禁、というわけです。
だからといって洗いざらい、人事情報を聞き出すなんてこと、したわけじゃないんですが。
伊原さんも別に、そういう意思があったわけではなく。
ただなんとなく、避けていた彼の人事に関する話題に
触れてもいいぞ、そういう合図だったんだと思います。

いや別に、彼の人事が問題ではなくて。なんというか
突然に彼が目の前から消える、それがたまたま海外赴任という人事発令だったわけで。
会社の都合ではなく、自己都合で会社を辞める、そういうことだっていくらでも有り得る。
その可能性を、僕はあんまり考えてなかったんだと気付かされたのが
今回の人事だったわけで。
それでも一応、人事に大きく絡むことだから
律儀な伊原さんは金曜深夜零時まで、その話題には触れずにいた。

「お前、大丈夫か」
伊原さんの第一声は、まずそれだった。
どういう意味の大丈夫なのか、どういうことなら大丈夫じゃないのか
僕はまだよく分からなかったから
「人並みに驚いてますけど」
と答える。
伊原さんは例の、皮肉っぽい笑い方をして
やたらグラスの中で氷を回していた。たぶん、
何か話したいことがあったのは、伊原さんの方だったんじゃないだろうか。

高校進学、大学進学、そして就職。
その都度、遠方に離れていく友人というのは必ずいる。
仲がいいから進路を同じにする、そういうのは少なくとも、僕にとっては健全な選択ではなくて。
距離が離れたから疎遠になる、ならば元々その程度の繋がり
そう思って、僕はずいぶん薄情なことをしてきたのかもしれない。
もちろん、故郷の友人というのは今でもいる。
帰省した時にたまたま都合が合えば飲む、その程度の付き合い方でも
十分友達、それで通る。
彼ともそれを通すことができるんじゃないか、お互いにその意思があれば。
はっきりとした区切りとか宣言とか、そんなものがなくても
友人であるという事実を、継続することはできるんじゃないか。
それがその夜、僕が彼について考えていた全てで
春にはつき物の、定番みたいな感傷、それ以外のものはなかった。

「お前がそう言うなら、そうなんだろう」
伊原さんはそう言って、笑った。
DATE: 2008/03/24(月)   CATEGORY: 未分類
そんなに間が空いたという実感もないまま、2週間くらい経ってましたか。
前回は内示直後だったから、ちょうどそれくらいですね。
伊原さんに飲みに連れ出されるハメになった、所までお話して終わってました。

上級管理職は大変だと思いますよ、ホント。
特に今回伊原さんは、自分の意思決定とは全く関係ない、
他部署の分まで内示して、他部署の人間の愚痴も引き受けて。
内示に納得いかないとか噛み付かれても、
俺が決めたわけじゃないと言う訳にも行かないから、ストレスがさぞ溜まるだろう。
だからといって、僕を前にして鬱憤を晴らす、そんなことはないけれど。
なんと言えばいいか、ああ疲れてるなあ、それが傍目によく分かる。
こういうことは、伊原さんという人にはかなり珍しいことで。
それで僕は、大変なんだなあと、思ったりしたわけです。

飲み始めたのは9時頃だったと思いますが
会社を出たなり人事情報を漏らす、そういうことはなくて。
胃腸に優しそうな和食ばかりを選んで、それもあんまり旨そうでもなく箸で摘んで
「お前は良いな、あちこち行けて」
なんて、笑っている。
まあ、仕事で全国主要都市を回って、行けばたいてい土地の名物を食べさせてもらって
そこだけ見れば楽しそう、なんだけど。
二泊三日、商用でホテルっていうのは体が芯からくたびれると
海外出張だった珍しくない伊原さんに、愚痴ってみても仕方ないかと
僕は大人しく、拝聴していた。
「自己申告、出す気はないのか?」
僕の会社には異動の自己申告制度がある、という話はずいぶん前にも触れた気がする。
伊原さんのプロジェクトに参加したいといっていた彼は、希望が通ったのか。
そんなことが、チラリと浮かぶ。
「そこまで仕事熱心じゃないんですよ」
ぜひその仕事をしてみたい、そう言って手を挙げられるほど熱意を持てる職種やポストが
自分の会社にあるのかどうか。探す気にすら、僕はならない。
今の仕事にほどほど満足しているから、だとは思うけれど
なんだか無気力みたいで、ちょっとイヤにはなる。

今の仕事、と思ってハタと気付く。
異動になってんじゃないか、俺。今の仕事が、これからも「今の仕事」ではなくなる。
それなりに満足、その有り難味を痛感するようなことに4月以降、ならなきゃいいが。
なんて考えると、ちょっと憂鬱気味になるのだが
腕時計に目を遣った伊原さんが、
「12時回ったな。よし、解禁だ」
とニヤリ笑うから、深刻に悩むのが馬鹿らしくなってしまう。

DATE: 2008/03/11(火)   CATEGORY: 未分類
伊原さんの思うところ、僕の思うところ。
他意があるのないのって、よく考えてみたら
部内の人事は、現在不在の直属オフィサーが主には決めることだから
よそ者の伊原さんが口を挟む、というのはあまり考えられないことではある。
相談されたり、そんなことはあったかもしれないけれど。どうだろう。

それよりも、なぜ伊原さんが直接僕に内示を出すのか。
そっちの方が不思議で尋ねてみると
「お前のところのマネジャーはそれどころじゃないからな。
内示漏れがないように、念のため、だ」
と、澄ましている。
そっか、僕の上司は異動なんだな、しかもけっこう動揺するような。
それを気の毒に思いつつ、僕は降って沸いた自分の人事を鑑みる。
前任が彼だとか、そういうことではなく
純粋に、あのポジションが自分にできるのかどうか。

できない、ということはないと思う。
ただ、やりたいか、と言われればそうではない。
自分がさんざん迷惑をかけてきただけに、ハードな仕事だということは分かっている。
迷惑をかけてきた側から、迷惑をかけられる側へ。
そういう人事は有り得ない話ではないけれど、
ちょっとそれは、懲罰人事じゃないかとも思いたくなる。

伊原さんは煙草を取り出して、ここが禁煙だということを思い出し
不機嫌そうに、また仕舞う。
まだ、内示は全部終わっていないのだろう。
コードレス電話を取り上げ、次なる異動者を呼び出す体勢にかかる。
どうせ内示に拒否権はないから僕は、じゃあこれで、と席を立った。
「今晩、飲みに行くぞ」
受話器を耳に当てながら、伊原さんが言った。
いや、ちょっと仕事が立て込んでるんですが、と言う僕に
「俺は疲れてるんだ」
と、意味不明な受け答えをして、伊原さんはもう電話の相手と話し始めていた。

疲れてる、それはそうだろうと思う。
だからって、僕が付き合わなくても、とも思う。
伊原さんが僕を飲みに誘う、本当の理由は分かっていたから
それ以上、どうのこうのと言い返すつもりもなかった。
伊原さんは伊原さんで思うところがあり、
僕は僕で、思うところがある、のかどうか。
正直、あんまりよく考えられないまま、飲みに行くことになってしまった。
DATE: 2008/03/07(金)   CATEGORY: 未分類
どうとでも取れる微笑。
今日は内示の最終日。
以前に書いた気がしますが、僕のところのカンパニーオフィサーが長期不在で
伊原さんが、代理で内示通達することになっていた。
とはいえ、カンパニーオフィサーが直接通達するのはマネジャーまでで、
僕らはマネジャーから内示を受ける。
なんとなく、そのマネジャー達が慌しい数日が過ぎても
呼ばれる様子はないから、僕はてっきり関係ないものと
タカを括って、暢気に仕事をしていた。
今週は珍しく、出張のない週だった。

昼前に、携帯が鳴った。
表示された名前は、伊原さん。
何だろう、とは思ったけれど、それ以上の警戒はなく
僕は何の気なしに、電話に出た。
ちょっと来い、と呼び出されたのは上層階の会議室。
まさかこの人から、とは夢にも思っていないから
妙だ妙だとは思いながらも、指定された会議室に僕は向かった。

10人用の会議室。
入口正面が大きな窓、その前に伊原さんは立っていた。
三つ揃いの上着だけ脱いで、テーブルの上には珈琲とパソコンと、
書類とかスケジュールとか、そういうものが散乱している。
あとこの人に足りないのは、煙草くらいだろうか。
伊原さんの上着が無造作に掛けてある椅子、その向かいの椅子の配置が少し乱れている。
ちょっと前まで、誰かが座っていた、そんな感じ。
「待たせたな」
誰かと通話していた携帯電話を切って、伊原さんは自分の椅子に腰掛けた。

タブレットのガムを勧められたが、遠慮した。
煙草が吸えない代わりだろう。
伊原さんはひとつ口に放り込んで、パソコンのキーボードを滑らかに打つ。
その頃ようやく、僕は不穏なものを感じ始めた。
ここはいわゆる、内示部屋だったのか。
僕は何人目なのか、少なくとも一人目じゃない。
伊原さんは画面で、来期の組織図でも確認しているんだろう。
僕の会社は重層構造で、しかもやたらに長ったらしいカタカナも多い。
間違えないように、ひとつひとつ確認して内示通達する。
こういうところは、この人も普通のカンパニーオフィサーと変わらないんだと、
僕はなんだか、感心していた。

伊原さんが、一つの部署名と、それに連なるポジションを告げる。
頭から尻尾まで、もう一度頭の中で反芻して、あれ?と思った。
「それって、」
パソコンを見ていた伊原さんが、目だけ僕を見る。
「どうせ、聞いてるんだろ」
ガムを噛みながら唇の端を上げる、そういうのもサマになるんだから
顔がいいというのは、なんと便利なことだろう。
「あいつの後釜人事ですか」
僕は、率直に聞いた。

彼がアメリカに行く、その空席を誰が埋めるだろう、と考えてはいた。
誰がやるにせよ、気の毒なことだと、今にして思えば
僕は相当に暢気なことを考えていたわけだ。
「他に適任がいない。それだけだ。他意はない」
と言いながら、伊原さんは微笑を崩さない。
そうだとも、そうでないとも、どうとでも取れる微笑だった。
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