男に告白された男
そんなつもりは全くないのに、同僚(男)から告白されてしまいました。 会社を辞めるわけにも行かず、彼も辞める気配もなく、 オフィスの5階(僕)と6階(彼)、なんとなく気まずい僕の日記です。
DATE: 2006/10/13(金)   CATEGORY: 未分類
最後の希望。
不意に、彼が明るい微笑を見せた。
「だから俺は、お前が好きなんだ」
唐突にそう言われて、僕はたじろぐ。
「顔、赤いぞ」
喉の奥で僕をからかう彼は、立ち上がって紙袋をさぐる。
出てきたのは、彼の郷里の地酒だ。
「冷蔵庫に入れるの、忘れたな。冷やして飲むのがいいそうだ」
勝手知ったように冷蔵庫を開ける彼に
「いいよ、だったら氷を入れれば良い」
と、日本酒党が聞いたら叱られそうな提案を僕はする。

グラスを二つ取り出して、冷凍庫から氷を放り込む。
並んで立つ彼は、笑って酒を注ぎ終えると
きっちり栓を戻して残りは冷蔵庫へ
その前に、僕の手を掴んだ。
握った、という方が正しいのか。
彼の長い指が掴んでいる自分の手首を、
僕は珍しいものでも見るように
言葉もなく、見ている。
後から考えれば、ドラマなんかで見慣れた展開が容易に想像できるのだが
その場に立たされると案外無感覚で、
ただ、掴まれた手首と、掴んだ指があるだけ。

「お前を抱いたら、俺は安心できるんだろうか」
一時停止ボタンが解除されたように、
融点に達した氷が動き出すように、
急速に現実の感覚を取り戻した僕に、彼の言葉の意味が迫ってくる。
実際、僕の手首は反射検査の膝のように跳ねて
でもそれは、彼の指を振り解くほどの強さではなかったから
僕たちは同じ体制のまま、彼の投げた手榴弾が爆発するのを待つ心境だ。
「それでも安心できなかったら、どうしたらいい?」
俺に聞くなよ、そんなこと
僕は言ったつもりだが、言葉になっていたか、定かではない。
「効果があるかどうかわからない、でも、最後の希望は
試さない限り、ずっと希望のままだからな」
僕に聞かせるためではなく、自分のために、彼はそう言ったんだろう。
僕の手首を放すと、グラスを二つ持ってテーブルに戻った。

「お前、もう少し俺のこと信用したらどうだ。
その方が、早いし、確実だ」
彼に押し倒されてなお、今と同じ関係を続ける自信こそ、僕にはない。
彼がどの程度、僕を抱くという台詞を本気で言ったのか
グラスに口をつける表情からは窺い知れない。

100%の冗談でないことは、分かっている。
分かっていて、こうして僕の部屋で酒を飲むのは
もう、やめた方がいいのかも知れない。
彼が最後の希望というやつを、いつか試す気になるかもしれない。
その時、僕はどうするのか。
考えることを避けていた考えを、ちゃんと考えるべきなんだろう。
いやしかし、本人を目の前にして、そんなこと考えられるほど
僕は器用じゃないのだが。







COMMENT

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匿名希望 | URL | 2006/10/13(金) 20:00 [EDIT]
息が詰まりました、今回の話。

伊原さんもなかなか面白そうな方と思ってましたが、彼もなかなか興味深い方ですね。

彼の不安は、なぜ続いているんでしょうねえ・・・。

アヤカ | URL | 2006/10/14(土) 21:29 [EDIT]
私までどきっとしてしまいました
ヒツジさん顔赤くなっちゃったんですね…笑
そんな反応してると押し倒されちゃう日も遠くない気が…

白いひつじ | URL | 2006/10/16(月) 19:48 [EDIT]
アヤカさん、コワイこと言わないでください〜。
分かりやすいのが長所でもあり短所でもあると、よく査定FBでも言われます…。

匿名希望さんのおっしゃるように、
彼の不安がなぜ続くのか、たぶん本人にも分からないんじゃないかと思います。
分からないから、不安なのかも。
幽霊と一緒ですね。いるかも、と思うから怖い。
そう考えると、人間はたいてい、
心の中に幽霊をひとつは飼っているのかもしれませんね。
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